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2020年10月3週号 横手市リンゴ 産地復興へ歩み止めず②
下垂誘引を実践  - 柴田多一さん
 横手市外ノ目の柴田多一さん(62)は現在、平場の園地80㌃でリンゴ栽培を続けている。「父親が苦労して開拓した山の園地でのリンゴ栽培をやめるのは、とてもつらかった。心が痛い。かなり思い切った決断だったが、今は正しかったと思っている」と話す。
 作付面積は2011年以前より多少減ったが、平場では1本当たりの収穫量が多いため、全体の出荷量は豪雪以前とほとんど変わらないところまで回復した。豪雪被害を受ける前から山の園地を減らし、平場の転作圃場に園地を移していた柴田さん。被害が甚大で手が付けられなかったことから、山の園地50㌃での栽培を全てやめて、平場の園地に改植した。
当時、柴田さんの園地では、平場でも約3割相当のわい化樹30~40本が雪の重みに耐えられず倒れた。雪解けを待ち、1人でこつこつと引き起こした木は、一部の枝が欠けたが、根は無事だったため、枯死することはほぼなかった。その後の管理によって「今はわい化樹とはいえないくらい大きくなってしまった」が、今年の秋も多くの実を付けている。
 修復作業の一方で、改植した園地では、栽培品種の見直しに取り掛かった。中生の「やたか」や浅黄色の「トキ」、晩生で着色系の「みしまふじ」やみしまふじの中から特に着色に優れたものを選抜した「こまちふじ」など収穫時期が異なる品種を現在、植栽する。
 豪雪で雪に備える考えが変化した柴田さん。枝を全て下向きに育てる「下垂誘引」を実践する。雪が滑って落ちやすいよう、枝の先端が地面すれすれまで下がるようにした。
 3年後の14年も大雪に見舞われたが、新たに植えた3年目のわい化樹も、他の木も被害はほとんど見られなかった。仕立て方を変えたことで、果実の7割近くが手の届く範囲の高さに実るため、結果的に収穫作業の省力化につながった。「これから作業の省力化は、ますます重要になる。仕立ての変更のほかに、剪せん定ていした枝の破砕機を導入し省力化を図っている」と話す。
 また、大雪への備えとして、ひょうと暴風による被害を補償する果樹共済の2点特定方式に現在加入しているが、これでは大雪での樹体損傷による減収の補償が受けられない。そのため、農業収入の減少を補てんできる収入保険への加入を検討している。
 「ここまで来るのは大変だったが、9年前取材を受けた時に話した園地の再生も、品種構成の見直しも実現することができた。今後は品質の高いリンゴの栽培に力を注ぎたい」と話している。 
次号をお楽しみに!